座面の中心は太陽(陽)と月(陰)から始まり、曲線に沿って24時刻を描く。陰陽これも古代の思想だが、当たり前のことに形や意味、名前を与えてきた人類史の一里塚だ。 


 座面を構成する小三角には

回 流 動 衝突 結合 分離 変化 無尽 生命 万種 人人 前進 逆向 滞留 錯綜 人流 生産 余剰 繁栄 格差 独占 支配 戦争 略奪 隷従 抵抗 逃散 奔流


 大三角には

philosophy  Curiosity  LAW imagination passion  RELIGION  Sympathy

という語が作者により選ばれ彫り込まれている。


『奔流の椅子』は地球儀ならぬ世界儀を目指したものだ。

地球が「回」る=公転、自転することにより、この世のすべてのことは始まり、思いつくまま単語を小三角上に彫って行き、最後が「奔流」となった。


 知ってか知らぬか、ままにされるか抗うか、いずれにせよ人は流れの中を生きている。ファッションの流行から、時代の流れまで。ほんの一時、世界儀の上に腰掛け、考えてよし、あくびしてもよしと思い作ってみた。

© 2016 ro21  2017/02/16

 会場内に据えられた『椅子』は幸せそうであった。それはポレポレ坐の内装が板張りで馴染みすぎるくらい馴染んでいたこともあるが、運営されるスタッフが、こちらの意図をしっかり理解し協力してもらえたことが大きかった。杓子定規で不寛容な世の中にあって極めて稀なことだ。謹んで感謝申し上げたい。この先、他のところでも設置/展示し続けて行く、つまり行脚を続ける勇気をいただいた。


 最後に、会場で『椅子』に座られた方に画像を送ってくださるように、ノートに書いておいたが、目ざとく見つけられた幾人かの方々から送っていただいた。また知己の方々からも画像をいただいたり、作者自身も撮らせていただいた。それをこのページに掲載しようと思って構成してみたが、やはり正面を向かれた画像がほとんどで、「Hello!!」を連呼する巨大企業のCMに似たものになってしまい、どうもいただけない。残念だが断念することにした。どうかご了承ください。

盧 興錫

 『椅子』の足元は元素記号がすべて彫り込んであるが、これはおなじみのタテヨコの元素周期表ではなく、何とかという学者の円形状の周期表に基づいている。上野の科学博物館で買った『世界で一番美しい元素図鑑』という本がこの単調な作業を面白いものにしてくれた。この時はまだニホニウムNhの命名が決まっていなかったので、ウンウントリウムUutという可愛い昔の名前のままだ。


 背もたれは「指」に対応させてある。世界は木、火、土、金、水の五つの行(要素)からできているというのが五行思想による世界の認識の考え方だ。万物をこれにあてはめようという、強引だが豪胆でもあり面白い。世界を知らず生きていくのは、あまりにも不安すぎる。世界を知るべき、理解すべきだ。陰陽五行思想は古代の智慧だが、その精神は現代までも貫いている。

 五行にならい、この世のすべてのものを五つに分ける。例えば五時、春夏秋冬+土用。例えば五方、東西南北+中。五色なんかは青赤黄白黒で三原色+グレースケールで実に納得だ。もちろん五指にも対応しているので、『椅子』はそれに沿った。

 「木」に連なるのは、指なら薬指、季節なら春、方角は東、声は角、情は喜、志は怒、味は酸、徳は仁、色は青 といった感じだ。薬指にあたる背もたれに、これらの字が彫られている。

奔流の椅子2